タニワキ日記

情報通信技術(ICT)関連のコラムです。記事は筆者の個人的見解です。

次のイノベーション

 産業革命の歴史を振り返ってみると、1780年代のワットによる蒸気機関の発明は労働力の在り方を根本から変えた。しかし産業革命を実体化したのは蒸気機関を移動手段に変えた蒸気機関車であった。1820年代を中心としてスティーブンソンが実用的な蒸気機関車を発明し、鉄道網が全国に広がった。これにより、大量輸送・大量消費、労働者の都市部への流入と工場の発展が起こり、銀行、郵便、新聞などの制度が整い、近代国家への脱皮が図られた。

 いまだに輝きを失わないP.F.ドラッカーの「ネクスト・ソサエティ」(2002年、ダイヤモンド社刊)でも触れられているように、産業革命の進化形態はインターネットにも適合するだろう。ドラッカーの指摘をなぞらえれば、インターネットの普及やブロードバンド網の整備は、産業革命においては、蒸気機関の発明か、せいぜい鉄道網の整備の途上といった段階ではないだろうか。

 これから起きること。それは人、物、カネに次いで、データが第四の産業の核となる社会経済システムになっていくということだろう。いわゆるビッグデータと呼ばれるデータ活用型社会の構築である。データ活用型社会では、人や物の動きがデータとして「見える化」され、勘や予測に依存しないエビデンス(実績)重視の世界になるだろう。

 もう一つ重要なのは手間暇かけてデータを解析するのではなく、その多くの部分をコンピュータの自動解析に委ねる社会になるだろう。グーグルは、情報の選択をページランク(多くのリンクが貼られているほど、そのサイトは価値が高いと推測)と呼ばれる手法を基に一つの巨大な検索市場を作り出した。こういう手法(データを解析し、価値を見いだす計算の手順)はアルゴリズムと呼ばれる。より優秀なアルゴリズムを見いだすことができれば大きな市場価値を生み出すことが期待される。そして、その先にはアルゴリズムさえも自動生成する人工知能の市場も具体的に見えてきている状況にある。

 データ重視社会になり、データの活用が社会経済に新たな価値を見いだす世界に移行していく。その際、エビデンスとアルゴリズムの2つが他者との差別化を図る上での鍵となる。

 こうした大きな流れの中で、次のイノベーションはどうやって生まれるだろう。イノベーションには2つの種類がある。一つは連続的なイノベーション。今あるものを基に改良に改良を加えてより良いものにしていく。これまでの携帯電話端末がその代表例だろう。毎年、携帯電話端末に機能がどんどん追加されて便利になる。しかし、ある時点からその便利さは消費者が求めるものを大きく上回るようになった。携帯電話端末の機能をすべて使いこなしている人がいったいどれだけいるだろうか。こうして連続的なイノベーションは製品の陳腐化を招き、市場が縮退していくことになる。

 2007年1月に発表されたiPhoneは非連続なイノベーションの代表例だろう。「電話を再発明する」といったS. ジョブスは、電話、音楽プレーヤー、インターネット検索の3つの機能を一つにまとめたのがiPhoneだと定義した。以降、従来の携帯電話端末とはまったく異なるスマートフォン市場が生まれた。スマートフォンの特徴は多彩な機能を一つにまとめた事やタッチ式などのユーザーインターフェースへの転換だけにとどまらない。従来の携帯電話会社が中心のビジネスモデルをアップル、グーグル、アマゾンなどクラウド活用型のプレーヤー主体の事業モデルに大転換したことにある。その成功モデルを分析してみると、購買履歴などを基にしたエビデンス活用型であり、同時にアルゴリズム活用型の事業モデルであることがわかる。

 こうした非連続なイノベーションはまだまだ出てくるだろう。データを活用した事業モデルこそが次の市場を創るのは間違いない。(本稿中意見にわたる部分は筆者の個人的見解です)

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