タニワキ日記

情報通信技術(ICT)関連のコラムです。記事は筆者の個人的見解です。

現実になりつつある自動走行車

 本年5月、米グーグル社は開発中の自動走行車のプロトタイプ(試作車)を公開した。同社は2010年から公道で自動走行車の走行実験を実施してきたが、今回公開された車は二人乗りで、ハンドルもアクセルもブレーキもない。行先を設定すると最高時速25キロで目的地まで走行する。こうした完全自動走行の車が実用化するにはまだまだ時間がかかるだろう。しかし、その前段階の「準」自動走行の車の実現は射程に入ってきている。

 グーグルの公開した完全自動走行の車は運転者が車の走行に全く関与しないが、その一段階前の「準」自動走行車の場合、運転者のハンドル操作やブレーキ操作の一部をICT(情報通信技術)の力で自動化する。この「準」自動走行も2つに分けられる。一つは、車に搭載されたレーダー等を通じて周辺情報を収集する「自律型」であり、もう一つの類型は、道路などに設置された機器や他の車に搭載された機器と通信を行って情報を収集する「協調型」である。「自律型」の場合、どの場所でも情報収集できるものの収集可能な情報には限りがある。他方、「協調型」の場合は一台の車では収集が困難な広域の情報を収集することができる。例えば、一本先の道路の渋滞情報や通行止め情報などが「協調型」の場合は収集できる。

 こうした自動走行車の特徴は、単に運転者の負担を軽減するということだけではない。車が収集する膨大な情報(プローブ情報と呼ばれる)を集約し、これを効率的な車の走行に活かすことができる。例えば、過去の走行データから歩行者が見えにくい危険個所に差し掛かると運転者に警告を出して自動的に減速したり、リアルタイムの渋滞情報をベースに最適な経路を算出して運転者に知らせたり、あるいは渋滞が予測される時間や箇所では信号の間隔や路線数の増減を実施したりすることも可能となる。

 冒頭に紹介したグーグル社だけでなく、日本においても自動走行車の開発が急ピッチで進んでいる。昨年11月には安倍総理や茂木経産大臣も参加して我が国初となる一般の公道における自動走行実験が行われた。また、本年6月、IT総合戦略本部において「官民ITS構想ロードマップ」が決定された。このロードマップでは、ITS(高度道路交通システム)の実現に向け、2010年代半ばから2017年までの間に「協調型」の自動走行車を実現し、2020年代前半には緊急時に運転者が自ら対応する以外はすべて自動走行可能な車を市場化するという具体的な目標を掲げている。

 いうまでもなく自動車産業は日本の基幹産業の柱であり、こうした自動走行車の開発は我が国の成長戦略を描いていく上で重要な要素である。また、他国に例をみないスピードで進む高齢化に対応して、高齢者も安心して移動できる車の登場が待たれる。EVの普及と相まって車の走行を効率化することでCO2排出量の削減にも大いに役立つ。何より交通事故を減らすことで安全な街づくりを進めることも期待できる。

 他方、検討すべき点も多い。完全自動走行車は現在の道路交通法などの法律の枠組みでは想定されていない。現在の車は事故を起こした場合は運転者の責任が問われる。しかし、完全自動走行車が事故を起こした場合、その責任は誰が問われることになるのか。国際的なコンセンサスもできていない状況にある。

 またサイバー攻撃の可能性も出てくる。昨年夏、米国で開催された学会において車をハッキングして運転者の意図に反して急発進・急加速させることができるという発表が行われた。車は今や電子部品やソフトウェアの塊となっていて、通常1台の車に約100個のコンピュータが搭載されている。こうした車が自動走行機能を持つと、他の車と通信する際に攻撃者がハッキングしたり、不正なソフトウェアを仕込まれ、車が操られてしまい深刻な事故に至ることも懸念される。

 自動走行車の実現は夢ではなく現実化しつつある。ICTの力で車の運転を自動化するというだけではなく、産業育成、街づくり、高齢者対策、法制度の見直し、セキュリティ強化など、多角的な観点から産学官の知恵を結集していくことが求められている。(本文中意見にわたる部分は筆者の個人的な見解です)

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