タニワキ日記

情報通信技術(ICT)関連のコラムです。記事は筆者の個人的見解です。

低下するインターネットの自由度

 昨年11月「ネットフリーダム」報告書が公表された。毎年この時期に定期的に報告書を策定・公表しているのはフリーダム・ハウスという非営利組織だが、今回の報告書では、世界65か国を対象にインターネットの自由が守られているかどうかという調査結果がまとめられている。それによると、自由にインターネットにアクセスできる利用者は世界で4分の1に過ぎず、インターネットの自由度は7年連続で低下しているという。65か国で世界中のインターネット利用者の87%をカバーしているとのことなので、事は深刻だ。

 

 今回の報告書でインターネットの自由度が最も高いとされたのは、2年連続でエストニアアイスランド。これにカナダ、ドイツ、豪州、米国と続き、日本は第7位となっている。逆にインターネットの自由度が最も低いのが中国、これにシリア、エチオピア、イランが続いている。

 

 今回の報告書では政府がネット上の議論を操作している国が前回調査の23か国から30か国に増加しており、少なくとも20か国でボットを使った世論調査が行われていると指摘する。ボットというのは人が書き込みをするのではなく、ソフトウェアによって人工的に作られたアカウントがソーシャルメディアなどで発言するもの。民間リサーチ会社の調査によると、世界のネット上の情報流通量の51.2%がボットによるものだという推計結果もあるという。

 

 少し具体的な例をみてみよう。ニューズウィークの調査によると、トランプ米大統領ツイッターは報道などでよく取り上げられるが、約3千万人がフォローしている。しかし、そのうちの51%はボットによるフォローだという。ハッシュタグ・ポイゾニングという手法も、バーレーンサウジアラビア、イェメン、イランなど多くの国で使われており、例えば反政府活動を行う人々が使うハッシュタグに全く関係のないツイートをボットで自動的に大量に書き込んで、反政府活動を行う人たちのメッセージをタイムライン上で埋没させて目立たなくするような行為が行われている。カタールやエジプトなどでは政府や政権与党のアカウントを乗っ取り、偽のコメントを拡散させたりする試みも行われているという。ケニアベネズエラなど少なくとも16か国では選挙期間中に偽ニュースを流して選挙結果を左右しようとする動きがみられた。

 

 また通信サービスの利用そのものを制限する動きもある。何らかの通信アクセスを制限している国の数は19か国にのぼり、これは前々回の報告書の7か国、前回の報告書の13か国から更に増加している。特にスマートフォンの普及に伴ってモバイルサービスの利用を制限するケースが増加しており、中国、エチオピアレバノンバーレーンパキスタンなど少なくとも10か国において、紛争地域におけるモバイルサービスを遮断し、地域住民がインターネットで発信することを止めさせようという試みがある。ジンバブエではモバイルサービスの料金を500%値上げし、国民がモバイルサービスを利用できなくすることも行われていると報告書は指摘する。また17か国では政府に批判的なジャーナリストのアカウントが意図的にハッキングして情報を窃取しようとしたり、暗号通信の解除を強制する国々も、中国、ハンガリー、ロシア、タイなど多く存在している。ロシアでは3千名以上が登録している人気ブログのブロガー(書き手)は個人情報を政府に登録することが求められるという。

 

 報告書ではこうした事例を多数紹介しながら、開かれた自由なインターネットが失われてきていると警鐘を鳴らしている。インターネットが人々に普及する中で生活の質を改善したり、民主化の動きが加速化したり、大きく社会や経済の仕組みが変わってきた。その一方で、インターネットの影響力が大きくなればなるほど、時の政権がインターネットの活動を制限し、インターネットの自由に制限を加えようという動きもまた激しくなっている。日本ではインターネットの自由が確立しているので、世界中でこうした動きがあるというのは実感を伴わない面もある。しかし、今回の報告書はこうしたインターネットの影の面を改めてクローズアップし、問題提起をしていると言えるだろう。(本稿中意見にわたる部分は筆者の個人的な見解です)

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